はじめに
Nouns DAOは、ブロックチェーン上で運営される分散型自治組織(DAO)の先駆的存在として知られています。
そのNouns DAOが法的な不確実性や規制リスクに直面する中、新たな法的枠組みの採用を検討しています。
中心となるのが、Wyoming州で制定された「Decentralized Unincorporated Nonprofit Association (以下、DUNA)」という新しい法人形態です。
このNouns DUNAへの移行をめぐる議論は、DAOの本質的な価値観である分散性及びパーミッションレスと、法的安定性や持続可能性とのバランスをどう取るかという根本的な問いを投げかけています。
コミュニティ内では、DUNAへの移行に賛成する声と反対する声が拮抗しており、Nouns DAOの将来の方向性を左右する重要な岐路に立っています。
この記事では、Nouns DUNAに関する議論の要点、提案の内容、そしてその影響について詳しく見ていきます。
DAOの進化と法規制との調和という、ブロックチェーン業界全体が直面する課題に対する一つの解決策としてのDUNAの可能性と課題を探ります。
DUNAの基本的な情報
まずはじめに、DUNAの基本的な情報についてここでまとめておきます。
Decentralized Unincorporated Nonprofit Association (DUNA)は、ワイオミング州で2024年3月に成立した新しい法人形態です。
主な特徴は以下の通りです。
- 法的根拠:ワイオミング州のSF50法案(2024年7月1日施行)
- 基本的な性質:非営利の非法人組織、分散型組織向けに特別に設計
- 主な特徴:
- 法的実体の確立
- メンバーの有限責任
- 税務の明確化
- オンチェーンガバナンスの法的認知
- 管理構造:中央集権的な管理機構を必要としない
- メンバーシップ:匿名性を許容、オンチェーンでの投票権を法的に保証
- 経済活動:営利活動への従事が可能、メンバーへの合理的な報酬の支払いが許可
- 分配の制限:メンバーへの利益分配は禁止
- コンプライアンス要件:KYCの実施が必要、制裁チェックなどの規制対応が求められる
- 税務上の取り扱い:法人として課税される可能性が高い
DUNAは、DAOの分散的な性質を維持しながら、法的な安定性と保護を提供することを目指しています。
関連情報
Nouns DAOのProp642の要約
Prop642は、Nouns DAOのフォーク(分岐)閾値を現在の30%から10%に引き下げることを提案するものでした。
この提案の主な目的は、Nouns DAOのDUNAへの移行に反対するメンバーに対して、より容易に離脱する選択肢を提供することでしたが、後に示すように提案は否決されています。
一方、Nouns DAOで初めてDUNAに関する提案であったことから、多くのメンバーが議論へ参加するきっかけになりました。
Prop642の提案の主なポイント
- フォーク閾値の引き下げ:
- 現在の閾値:30%(約211 Nouns)
- 提案された閾値:10%(約71 Nouns)
- 提案の背景:
- 過去1年間の平均投票数は約100票
- 最大投票数は168票
- 現在の閾値(30%)は平均投票数の約2.1倍
- 提案の意図:
- アクティブな投票者に対するより適切な少数派保護
- DUNAに根本的に反対するメンバーにフォークの選択肢を提供
- 「アービトラージャー」への対応:
- 現在の簿価は過去最低水準に近い
- フォークによる利益獲得の可能性は低下
- DUNAとの関係:
- DUNAはフォーク機能を削除する予定
- この提案は、DUNAへの移行前の最後のフォーク機会を提供する可能性がある
Prop640は、DUNAへの移行に対する反対意見を持つメンバーに対して、より容易に離脱する手段を提供することを目的としていました。
具体的には過去1年のアクティブな投票者の数を参考にして、フォークの閾値を下げるものでしたが、この提案自体は否決されました。
Prop642へのコミュニティメンバーのコメント要約
提案へのコメントは、NounsCampで確認ができます。
ここでは、Prop642に対してNounsCampに寄せられたコメントを簡単にまとめました。
反対派
- gami: 現状のDUNA提案は失敗のリスクが高いと指摘。より慎重で包括的なアプローチを要求。
- indexcard.eth: 提案がフォークの実現可能性に対する反論に十分対応していないと批判。
- bixbite.eth: 閾値を10%に下げることで、アービトラージャーの殺到や無謀な提案の急増を懸念。
- monografia.eth: フォークが少数派保護ではなく利益獲得のメカニズムになっていると批判。
- benjamin.latsko.eth: フォークメカニズム自体に反対の立場。二次市場の存在が十分な退出オプションを提供していると主張。
賛成派
- toadyhawk.eth: フォークメカニズムの本来の目的である少数派保護のための正当な試みだと評価。
- ccarella.eth: 少数派保護メカニズムの本来の目的に沿った初めての正当な要求だと評価。
- three9s.eth: DUNAへの移行に強く反対しており、参加したくない人々のための簡単な退出手段が公平だと主張。
これらのコメントは、Prop640とDUNAへの移行に関する複雑な議論と、コミュニティ内の様々な視点を反映しています。
ここで重要な視点は2つあります。
1つは、フォークの閾値を下げることによって、DUNAに反対する少数派保護(DAOから出ていける事を保証)という本来のフォークの目的を果たすこと。
もう一つは、フォークの閾値を下げることによって、アービトラージャーに利用されやすくなること。
すなわち、NFT=Nounで利鞘を稼ぐことに利用されるということです(トレジャリーの資金が資金がアービトラージャーに狙われる)。
少数派保護の観点から閾値を下げるとアービトラージャーに狙われるという相反する状況で判断が求められたと思います。
個人的には、DUNA移行への詳しいロードマップが示されていない、議論が進んでいない現状で閾値だけを下げるというやり方には反対です。
この意思を反映するために、pNounsのsnapshotにおいて、Prop642への反対票を投じました。
Nouns DAOのCandidatesに提出されているDUANの提案候補の要約
この記事を書いている時点で、Nouns Foundationから、「Establish Nouns DUNA in Wyoming and fund first year of operations(ワイオミング州でNouns DUNAを設立し、初年度の運営資金を提供する)」という提案候補がNouns DAOのCandidatesに提出されいてます
この提案の主な内容は以下の通りです。
- 目的
- Nouns DAOをワイオミング州のDUNAに移行する
- DUNAの設立と初年度の運営に必要な資金を確保する
- 要求資金
- 726,000 USDC
- これはトレジャリーの7.5%、1年間のインフロー予測の24%(約86日分)に相当
- 提案の背景
- 財団メンバー、プロトコル開発者、プロジェクト創設者、Nounオーナー、弁護士、会計士など多くの関係者の数百時間に及ぶ作業の結果
- 法的枠組みとDAOの進化に対応するための取り組み
- DUNAへの移行理由
- 法的実体の確立
- メンバーの責任限定
- 税務の明確化
- 米国の法的枠組みによる正当性の獲得
- 予算内訳
- 財団関連:342,000 USDC
- DUNA関連:384,000 USDC
- 重要な変更点
- フォーク機能の廃止と新たな払戻しメカニズムの導入
- KYC(本人確認)要件の導入
- 税務申告と納税の義務化
- 次のステップ
- この提案の可決はDUNAへの自動的な移行を意味しない
- 法的要件の遵守と移行のための準備を行う
- 将来的に財団からの発表または別のオンチェーン提案で移行を正式化する
提案候補に対するコミュニティメンバーのコメント要約
この提案候補へのコメントもNounsCampで確認ができます。
賛成派
- benjamin.latsko.eth: DUNAへの移行を進歩と成熟の証と評価。
- asm.eth: Nounsの未来と世界のモデルになるためにDUNAを支持。
- 4156.eth: DUNAを業界の正当性を証明する機会と捉える。
反対派
- three9s.eth: KYC要件に強く反対。フォークメカニズムの削除を批判。
- gami.eth: 現在の提案形式に反対。より慎重で包括的なアプローチを要求。
- nekofar.eth: Nouns財団の不透明性と中央集権化を強く批判。
これらのコメントは、DUNAへの移行に関するコミュニティ内の多様な意見を反映していますね。
この提案候補は、議論が進んだ時点で本提案に提出される可能性があります。
今後の動きに注目です。
Nouns Foundationの概要
ここで、Prop642やCandidatesに出てくるNouns Foundationについてまとめておきます。
Nouns Foundationは、Nouns DAOの初期の歴史において、プロジェクトの予備的な法的構造として設立されたケイマン諸島の財団です。
主な特徴と役割は以下の通りです。
- 設立目的:DAOの法的不確実性に対処するための予備的な法的構造を提供。
- 法的形態:ケイマン諸島に設立された非営利財団。
- 主な役割:Nouns DAOの法的代表、コンプライアンスと規制対応の管理、DAOの長期的な持続可能性の確保。
- 財務状況:当初458 ETHを受け取り、現在約278,000ドルの資産と325,000ドルの負債を保有。
- DUNAへの移行における役割:移行プロセスの主導、法的・規制的な課題の解決を支援。
Nouns Foundationは、DAOとその周辺の規制環境の変化に伴い、より適切な法的構造への移行を検討するようになり、DUNAへの移行は、この変化への対応として提案されています。
Nouns DUNAの議論のポイント
賛成派の主張
- 法的保護:メンバーの個人資産をDAOの債務や訴訟リスクから保護。
- 税務の明確化:法人として適切に納税することで、メンバーの税務リスクを軽減。
- 規制対応:米国の法的枠組みを採用することで、規制当局との関係改善が期待できる。
- 正当性の獲得:法的実体として認知されることで、外部パートナーや協力者との関係構築が容易に。
- ガバナンスの安定化:法的に認められた枠組みの中でのガバナンスが可能に。
- 将来の成長:より安定した法的基盤により、DAOの長期的な成長と発展が期待できる。
反対派の主張
- 分散性の低下:中央集権的な法的実体への移行は、DAOの本質的な分散性を損なう。
- 許可制への移行:KYC要件の導入により、誰でも自由に参加できるという原則が損なわれる。
- イノベーションの制限:法的枠組みに縛られることで、革新的なアイデアの実現が困難になる可能性。
- コストの増加:法務、管理、コンプライアンス関連のコストが大幅に増加。
- 税負担の増加:法人としての納税義務により、DAOの財務的負担が増える可能性。
- フォーク機能の喪失:現在のフォーク機能が廃止されることで、少数派の保護メカニズムが弱まる。
- グローバルな参加の制限:米国の法的枠組みを採用することで、国際的なコミュニティの参加が制限される可能性。
- DAOの理念との不一致:法人化はDAOの本来の目的である完全な分散型組織の理念と矛盾。
まとめ
Nouns DUNAへの移行をめぐる議論は、DAOの進化と法規制との調和という、より大きな文脈の中で捉える必要があります。
法的安定性と規制対応の必要性と、DAOの本質的な価値観である分散性、パーミッションレス、イノベーションの自由のバランスをどう取るかという問題は、Nouns DAOに限らず、ブロックチェーン業界全体が直面している課題です。
DUNAは、DAOに法的実体を与え、メンバーの責任を限定し、税務を明確化するという点で、現在のDAOが抱える多くの法的リスクに対処する可能性を秘めています。
特に、一般的なパートナーシップとして扱われるリスクを回避し、メンバーの個人資産を保護する点は重要で、法的に認知された枠組みの中でオンチェーンガバナンスを実現できる点も、DAOの発展にとって大きな意味を持ちます。
NounsのDUNA移行に関連して提案されている新たな払戻しメカニズムは、フォーク機能の代替として有益な役割を果たす可能性があります。
この仕組みは、DUNAの法的要件に適合しつつ、メンバーに一定の退出オプションを提供することになります。
従来のフォーク機能と比較して、この払戻しメカニズムは、DAOの資産を分割することなく、個々のメンバーに対してより公平で透明性の高い退出手段を提供できる可能性があると考えます。
一方、DUNAへの移行は、KYC要件の導入やコンプライアンス対応の必要性など、DAOのパーミッションレスや自由度を制限する要素も含んでいます。
また、税負担の増加など、DAOの運営方法や財務面にも大きな影響を与える可能性があります。
Nouns DAOのDUNAに関する議論は、DAOが成長し、大きな影響力を持つことによる課題を象徴しています。
完全な分散性と無規制という理想を追求するか、それとも法的安定性と持続可能性を重視するか。この選択は、本物ののDAOとして、将来の発展と成功にとって極めて重要なものになりそうです。
この議論は単にNounsだけの問題ではありません。
DUNAのような法的枠組みの採用は、他のDAOやブロックチェーンプロジェクトにも大きな影響を与える可能性があり、Nounsの決定は、業界全体の方向性を示す先例となる可能性があります。
最終的に、Nouns DAOがDUNAを採用するかどうかは、コミュニティの意思決定に委ねられます。
その決定プロセス自体が、Nouns DAOの強さと課題を示していると思います。
多様な意見を持つメンバーが、オープンで透明な方法で議論を重ね、合意形成を目指す姿は、DAOの理念を体現しているとも言えます。
Nouns DUNAの議論は、DAOの進化と法規制との調和という、より大きな文脈の中で捉える必要があり、この決定がどのような結果をもたらすにせよ、それはDAOの未来形を模索する重要な一歩となるでしょう。
今後も、Nounsコミュニティの議論と決定プロセスを注視し、DAOの進化の方向性に注目していきたいと思います。
ブロックチェーン技術とDAOは、まだ発展途上の概念です。
Nouns DUNAの事例は、これらの革新的な組織形態が、既存の法的・規制的枠組みとどのように調和していくかを示す重要なケーススタディとな離、この過程で得られる教訓は、未来の分散型組織のあり方を形作る上で貴重な示唆を提供するはずです。
Nouns DAOのDUNAに関する議論の場所は以下のとおりです。
Nouns DAUAへの意見が多く寄せられているので、議論の理解に役立てばと思います。
Warpcastの/nouns-dunaチャンネル
NouncilのDiscordのnouns-dunaチャンネル
Candidates「Establish Nouns DUNA in Wyoming and fund first year of operations」のコメント欄
The Noun Squareの「Noun O’CLock」